2018年07月09日

歯車 第一章 二四

haguruma_yuez.png
「歯車-Wheel of fortune-」第一章 二四
  二三節< >二五節

---------------------------




 馬で走るのにも、疲れてきた。叶子ユエズはそっとため息をつく。シシ国ノイルに入ってから連日馬で駆けてきたが、まだ目的地にはつかない。これなら虎の姿になり自分で走った方が良いとこぼすと、耳ざとく聞きつけたRAINレインが言う。
「馬で走るのは確かにつかれる。でも走るより体力温存できるわ」
 はぁーいと気の抜けた返事を返すと、まぁいいわと言い捨てられた。
 遠くからGOUゴウ達の呼ぶ声が聞こえる。今日は野営らしい。向かう方向に寄るのに都合の良い村がなかったということだ。彼らは先行して野営するのに合う場所を探してくれている。
 呼ばれた方向へ向かう途中、薪になりそうな木の枝をいくらか拾う。彼らのいるところに着いてからで、それをひとところに積み上げるとGOUが炎華エンカに頼んだ。炎華がうなずくと共に、ほどよい大きさの炎が薪を包んだ。火を熾さなくていいのは便利だが、それを言うと炎華の機嫌を損ねることは今まで一緒にいて分かっている。
 KENケンが短刀を手に何かしている。気になって後ろからのぞいてみると、兎が皮を剥かれていた。
「叶子は兎、食べられるか?」
 聞かれうなずくと、よかったと言われる。
「おれは戦いに行ったりするから、食べられないものはない」
 そうじゃないといざという時困る、と言うとうんうんとうなずかれる。
「そうだよな。じゃあ野営も慣れてるのか?」
「まあね」
 会話の間に、兎が食べやすい大きさの肉塊へと変化していく。それを削った枝に刺して火に当てる。ほどなくしておいしそうな匂いが広がっていった。
 KENがもういいぞと言うと火を中心に集まっていたそれぞれがその枝を手に取る。叶子は枝から直接肉を口に運びそれをかみしめると、肉汁が滴る。それもおいしくいただいた。
「そういえばさ、疑問に思ってることがあるんだけど」
 二つ目に手を伸ばしながら、GOUたちに視線を向ける。
「おれとRAINは虎人フーレンじゃないか。虎人は族長を殺された恨みがグオに対してある。でもGOUはショウ国ラトスイルクの一術師だろ? 代表して過を討つように言われたとか? KENにいたっては、どの種族なのかどこの国に住んでいるかも知らない。どうして過を討とうと思うんだ?」
 そりゃ疑問だな、とKENが言うと、GOUが後を引き継いだ。
「私は現ショウ国女王コランダム陛下の義理の息子だ。こっちは女王の娘であるREATリートの息子」
 その言葉で思い出した。ショウ国の女王も被害に遭っていたことを。けれどそれにしては、二人の印象はショウ国に結びつかない。あの国の住民である水晶人クリスタリアンなら、銀の髪と瞳、身体のどこかに石を持つのが特徴だ。もっともGOUは額あてをしているので、そこにあるのかもしれない。
「だけどさ、二人とも見た目全然水晶人じゃない。――なんか理由あるのか?」
「とりあえず、おれは混血だからっていう理由。この髪も父親ゆずりなんだよ」
 KENがいじっている髪の色は確かに水晶人の銀には似ても似つかぬ紅だった。母親が女王の娘というなら、それで理由もなんとなく納得もいくような気がする。
 次をうながすように、GOUへ視線を向けた。こちらは髪も目も漆黒だった。その目が伏せられる。
「――私の実の兄弟はKENの父親の方なんだ」
 彼は持っていた枝を土の上に置いた。手を組んでいる。
「KENの父親とは一世代ほど年が離れている。本当の母親は一目も私にくれない。ずっと自分が子どもを産んだことを疎んでる。父親と仲が悪くてね。だから、私は親から放棄されて育った」
 どうして彼の母親が子どもを産んだことを疎んでいるのか知りたくて聞こうとした。けれど身を乗りだした途端、叶子の考えていることが分かったのか、KENが止めてきた。何か深い事情があるのだろう、そう感じておとなしく従う。
「REATは私を産まれた時から知っていてね、。だから五歳の時、見かねた彼女は私をその場から連れだした。そして自分の母国であるショウ国へ向かった。私が教育を受けるよう、恵まれて生活ができるよう母親であるコランダム女王に頼んでくれたんだ。女王は私を見て、すぐさまその準備を行ってくれた」
 なにより嬉しかったのは、と続けた。
「嬉しかったのは、その時頭を撫で柔かく抱きしめてくれた。自分の息子になりなさい、と言ってくれた。ずっと優しく接してくれた。そうやって接してくれた人はいなかった」
 きゅっとこぶしを握る。
「だから私は彼女のためなら、何でもすると決めた。彼女はそれを受け入れてくれた。私の働きに感謝すると言ってくれた。だから、だから――」
 後は言わなくても分かった。だから過を討つのだ、と。
 おそらく叶子には見えない絆がそこにはある、そう思うと過に対する憎しみも透けて見えるような気がした。
「ねぇもうひとつ聞いていいかしら?」
 ずっと黙って話を聞いていたRAINが口を開いた。
「KENの父親でGOUのお兄さんは、ショウ国の王女と結婚できるような身分なんでしょう? どこの国の方なの?」
 そう尋ねた途端、二人は思案顔になった。どう説明しようかをあぐねているようだった。KENがぽつりと聞いてきた。
「“宝珠の世界”というものを知ってる?」
「知ってるけど、伝説の域を出ない噂話でしょう?」
 いぶかしげに呟いた。叶子は宝珠の世界自体分からなくて首をかしげる。
「じゃあそれが真実でないなら、おれらはここにいないよ」
 なぁとGOUに振ると、確かにという答えが返ってきた。
  疑いぶげにしているRAINの袖をひっぱり、訊ねる。
「なぁ“宝珠の世界”ってなんだよ?」
 振り向いたRAINはうーんとうなった。
「わたしもよくは知らないのだけど、この世界と別に世界があり、そこではすべての者が宝珠を抱いて生まれてくるというの。一人の王においてその世界は統べられ治められているって……」
 間違いはない? とKENに向かって訊ねる彼女に、まぁ間違いではないなとKENが返している。GOUが額あてをした額をとんとんと叩いている。やはりあそこに石があるのだろう。
「この世界と別の世界?」
「そういうこと。昔は行き来していたという話よ。古代の文献にもちらほらと出てくるのだけど、今だれもそこへ行ったという話はないから、伝説の世界だって言われているの」
 本当にあるの? と確認に確認を重ねる彼女に、KENが笑って答える。
「真実だよ。今はあちらから来ることはできるけどこちらから行くことはできないみたいだ」
 理由は知らないけど、と付け加えるKENに、自分の目で確かめないことには信じないわよ、とRAINがまだ疑いの目を向けていた。
 その間にGOUの隣へと動く。すると、彼がずっと震えていたのが分かった。女王のことだろうか。そこまで個人的な事情があるとは知らなかった。
「GOU。過、絶対倒すぞ」
 そう声をかけることしかできなかった。けれど小さなうなずきが返ってきたことが、それで良かったのだと言っていた。


二三節< 歯車 >二五節

Copyright(C) 2018 藤原湾. All rights reserved.(無断転載・無断転用禁止)
ラベル:歯車
posted by 藤原湾 at 16:11| Comment(0) | 文庫◎長編「歯車」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。